世の中には二種類の人がいる。「パイを増やす人」と「パイを分ける人」だ。
「パイを増やす人」は、限られた資源しかない場合に、その資源全体を増やして一人ひとりの取り分を多くしようと発想する人だ。一方、「パイを分ける人」は今ある資源を前提として、分けることに集中してしまう人のことである。
例えば、孤島に飛行機が不時着し、100人の人が島に閉じ込められてしまったとしよう。しかし、飛行機に積まれていた非常食は100人分に満たない。ここで「パイを増やす人」は、まずどのように食料全体の量を増やそうか、という方向に考えを進める。島中を探して食べられるものが無いか、新たに食べ物を作り出すことは出来ないか、海に出て魚を取ってくることは出来ないかなど、新しいアイディアや外に出て行くことで量を増やし、足りない問題を解決しようと考える。一方、「パイを分ける人」はとりあえず今ある限られた非常食を、どう100人に分配するかということが気になってしまい、そちらを先に進めてしまう。誰に多く、誰に少なく渡すのか。それとも全員平等に分けるのか。
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世の中にはどちらのタイプの人も絶対に必要である。「パイを増やす」ためには、イノベーションを起こしたり、他の場所に打って出るなど、それなりの気力や能力を必要とするが、これは全ての人に出来るわけではない。出来ない人たちにも、それなりに平等に資源が行き渡るようにするのが「パイを分ける人」たちの役目である。しかし、一般的には「パイを増やす人」が多い方が、社会や組織は前向きに、将来に向かって進むようになるし、「パイを分ける人」が多いと、人々は政治的になり、誰かを排除したりとする方向に行きがちである。
世の中にある多くの問題は「パイを増やす」ことで解決する場合が多い。にもかかわらず、「パイを分ける」方向ばかりに意識が向いてしまうと、全体として伸ばせる余地がたくさんあるのに、誰かを排除しながらの奪い合いになるような、つまらない結果を生む。世の中を前向きに、ポジティブにドライブしていくためには、「パイを増やす人」がたくさんいるのがとても重要なのだ。
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人口が増えて食料生産が追いつかない場合、「パイを増やす人」は、イノベーションによって食糧生産を増やすことを考える。かつてのインドの「緑の革命」のように、農地の改良や品種改良、肥料等の使用といったイノベーションにより、全体の食糧生産を圧倒的に増加するような結果を生み出すことが出来る。それなのに、イノベーションを起こすことに投資せず、限られた食料をめぐって争いを起こすのは不幸なことだ。
あるいは、石油などの天然資源が枯渇していく今後、「パイを増やす人」は再生可能エネルギーや省エネの研究に力を入れるだろう。「パイを分ける人」に付き合って、資源をめぐる政治抗争や内戦を起こすのは不幸なことだ。
人口減で国内市場が伸び悩む日本国内で、「パイを増やす人」は競合他社とシェアを奪い合う不毛な戦いをせず、目を外に転じる。海外で大きく成長している市場はたくさんある。そこに出て行って、日本企業にとってのパイ全体を増やそう、と発想し、グローバル化する。現地企業から見れば「パイを取られる」ことになるが、技術移転などで、両者にWin-Winになるような解決策はいくらでもあると考える。
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組織で「パイを分ける人」が幅を利かせるようになると、非常に不健全になる。人々は「パイを分ける人」から分け前を多くもらおうと、より政治的に動くようになり、他の人を排除したりするなど、後ろ向きになる。「パイを増やす人」になって、未知の市場を開拓したり、グローバルに事業を広げたりするのは、労力が必要でリスクを伴う。それよりも、リスクをとらずに偉くなれる「パイを分ける人」になったほうがよっぽど良いので、誰もリスクを取らなくなる。新しい企画が企業全体の売上を増やしているのに、その企画は本来うちの部署の縄張りだから勝手に取るな、と縄張り争いになるのは「パイを分ける人」の結果だ。縄張りを破らずに、全体の成長のために「パイを増やす」ように動ける、大志と器用さを併せ持つ人� ��いるが、その数は非常に限られている。結果として組織が硬直化し、イノベーションは起きず、成長が止まる。
どんな組織にも「パイを増やす人」と「パイを分ける人」はいる。そしてどちらも必要である。
そして必要悪の結果として、硬直化し、成長が止まった組織もたくさんあるだろう。
硬直した組織を前向きに、良い方向に変えていくためにやれることは三つしかない。
1) 自分自身は「パイを増やす人」となって、イノベーションや変革を起こす能力と意思を持ち合わせた人になること
2) 「パイを分ける人」の作った既存の縄張りや規則に一部従い、かわしつつ、不必要に「分ける人」を増やさないようにバランスを取ること
3) 余り世渡りはうまくないが「パイを増やす」能力がある後輩たちを守って育てていくこと・・・
前向きに行きたいですね。
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