2012年5月10日木曜日

ニホンジカ - Wikipedia


ニホンジカ(日本鹿、学名:Cervus nippon)とはアムールからベトナムに及ぶ東アジア沿岸部及び日本列島に分布するシカの一種。日本では北海道から九州、その他の島々に広く棲息し、日本人にとってなじみ深い大型哺乳類である。和名に「ニホン」とついているが日本固有種ではない。

日本、朝鮮半島、中国、台湾、ベトナム、ロシア沿海州に分布する[1]

アゼルバイジャン、アメリカ、アルメニア、イギリス、ウクライナ、オーストリア、チェコ、デンマーク、ドイツ、ニュージーランド、フィンランド、フランス、ポーランド、リトアニア、ロシア、そして日本のいくつかの島々に移入分布する[1]

頭胴長110-170cm、尾長8-20cm。全身は茶色だが、尻の毛は白く縁が黒い。夏には胴体に白点が出現し、冬になるとほぼなくなる。オスは枝分かれした角を持ち、春先になると落下し新たな角に生え換わる。

森林や草原などに生息し、主に薄明薄暮性だが狩猟期には夜行性となる。

植物食で、草や木の葉、ササ、果実などを採食し、餌の乏しい冬季には樹皮も食べる。奈良公園一帯においての本種は、年中鹿せんべいが食える。

交尾期は9-11月で、オスは「フィー」と聞こえる鳴き声を発し求愛を行う。メスは交尾後、5-7月に1頭の子を産み、子は生後2年で性成熟する。

[編集] 亜種

Mammal Species of the World, 3rd edition によれば、ニホンジカには16の亜種が確認されている[1]

  • Cervus nippon aplodontus
  • Cervus nippon grassianus
  • Cervus nippon hortulorum
  • Cervus nippon keramae
  • Cervus nippon kopschi
  • Cervus nippon mageshimae
  • Cervus nippon mandarinus
  • Cervus nippon mantchuricus
  • Cervus nippon nippon
  • Cervus nippon pseudaxis
  • Cervus nippon pulchellus
  • Cervus nippon sichuanicus
  • Cervus nippon soloensis
  • Cervus nippon taiouanus
  • Cervus nippon yakushimae
  • Cervus nippon yesoensis

[編集] 日本のニホンジカ

日本国内に棲息するニホンジカはエゾシカ、ホンシュウジカ、キュウシュウジカ、マゲシカ、ヤクシカ、ケラマジカ、ツシマジカの7つの地域亜種に分類され、北の方のものほど体が大きい(ベルクマンの法則参照)。南西諸島の3亜種は特に小型であり、オスの体重で比較するとエゾジカの140kgに対してマゲジカとヤクシカで40kg、ケラマジカでは30kgである。


うつ病エレガントなガラスパターン
  • エゾシカ(エゾジカ)(亜種) C.n.yesoensis 【北海道/日本固有亜種】
  • ホンシュウジカ(亜種) C.n.centralis 【本州/日本固有亜種】
奈良(奈良県奈良市一円)のシカは天然記念物。分子遺伝学的に異なる南北二つのグループが中国地方でオーバーラップしていることが近年明らかになった。
  • キュウシュウジカ(亜種) C.n.nippon 【四国、九州/日本固有亜種】
江戸時代にヨーロッパで分類に使用された亜種であるため、亜種名が「nippon」(基亜種)になっている。
  • ツシマジカ(亜種) C.n.pulchellus 【対馬/日本固有亜種】
独立種とする説もあったが、分子遺伝学的にホンシュウジカ(中国地方産)に極めて近いことがわかり、近年は亜種としない記述も多い。
馬毛島(まげしま)は、種子島の沖に位置する小島。10世紀の生息(狩猟)記録があり、少なくとも1000年以上にわたり小島で維持されてきたと考えられる。島全体を私企業が所有し、唯一全く保護策が講じられていないニホンジカ亜種であり、現在、島全体の大規模開発が進められている。
屋久島に12,000-16,000頭ほどがいると推定されている[2]。オス成獣の角が4本に枝分かれするキュウシュウジカに対して、ヤクシカは3本が普通である。起源は不明だが、有史以前から自然分布していたと考えられている。近年急激に増加し、世界遺産の島での管理のあり方が問われている。
日本哺乳類学会のレッドリスト(1997年)では危急亜種だが、環境省のレッドリストには記載されていない。ケラマジカおよびその生息地は天然記念物。江戸時代の移入個体の末裔であることが古文書などから明らかとなり、その保全のあり方が注目される。

これらのほかにタイワンジカ(C.n.taiouanus)が日本でも観光用に移入され、和歌山県の友ヶ島などで野生化。本土に渡って在来亜種と交雑することが危惧されている。

瀬戸内海の 島々にはかつてはその多くにシカが棲んでいたと考えられるが、現在では淡路島、鹿久居島、小豆島、因島、生口島、宮島の6島のみであり、鹿久居島、因島などでは絶滅寸前とも言われる。大三島のシカはミカン栽培のために山が切り開かれた際に絶滅し、1964年を最後の記録とする。

なお、以下の種は全くの別種だが、日本に帰化しているので名を挙げておく。

  • キョン Muntiacus reevesi 【房総半島】 外来種。1980年ごろ、房総半島で野生化。

[編集] 外来種問題

東アジア以外では19世紀にイギリスのスコットランドや欧州各所に人為移入されたが、今となっては在来のアカシカと交雑する厄介な外来種として扱われている。またニュージーランドにも人為移入されており、自然生態系を壊すため管理のあり方が議論されている。

[編集] 日本人と鹿

[編集] 名称の由来

シカを意味する日本語には、現在一般に使われる「しか」のほかに、「」、「かのしし」、「しし」などがある。

地名などの当て字や、「鹿の子(かのこ)」「牝鹿(めか)」などの語に残るように、古くは「」の一音でシカを意味していた。


苦痛と快楽の間の関連

一方、古くからの日本語で肉を意味する語に「しし」(肉、宍)があり[3]、この語はまた「肉になる(狩猟の対象となる)動物」の意味でも用いられたが、具体的にはそれは、おもに「」=シカや「」=イノシシのことであった。 後に「か」「ゐ」といった単音語は廃れ、これらを指す場合には「しし」を添えて「かのしし」「ゐのしし」と呼ぶようになった[4]が、「かのしし」の方は廃語となって現在に至っている。 さらに、「鹿威し(ししおどし)」「鹿踊り(ししおどり)」にあるように、おそらくある時期以降、「しし」のみでシカを指す用法が存在している。

こうした一方で、「しか」という語も万葉集の時代から存在した。語源については定説がないが、「か」音は前述の「」に求めるのが一般的である。一説に「せか」(「せ」(兄、夫)+「か」)の転訛と考え、もと「雄鹿」の意味であったとも、また、「しし」+「か」の変化したものかともいう。

同一の語が"けもの"を意味したり"シカ"を意味したりする現象は他の言語にも見られる。たとえば英語: deer に連なる古英語: dēor は元来"けもの"の意であったことが知られている。サンスクリットでも同様の現象があったという。こうした語義のゆれや変遷には多くの場合、シカが最も狩りやすく人間にとって身近な動物であったことが関係していたと考えられている。

[編集] 日本文化における鹿

「鹿」は秋の季語であり和歌などに詠まれ、歌集におさめられている。シカは秋に交尾期があり、この時期になるとオスは独特の声で鳴き角をつきあわせて戦うため人の注意を引いたのだろう。

花札の十月には紅葉とともに描かれている。また無視することをシカトというのは花札での十月の鹿(鹿十 - シカトウ)が横を向いていることに由来する。

ニホンジカの夏毛は茶褐色に白い斑点が入った模様をしており、これは鹿の子(かのこ)と呼ばれ、夏の季語である。

なお、現代の日本における鹿のイメージは奈良公園や厳島神社にいる「神鹿」によるところが多いが、そのイメージは鹿せんべいに群がる愛らしくおとなしい動物というようなものである。また、子供動物園で放し飼いにされている子鹿によるところもある。無論そのイメージは「かわいい」というものである。なお、子鹿は「バンビ」と呼ばれることが多いが、同名の児童文学はオーストリアの作品である。なお、ニホンジカの子供を「バンビ」と呼ぶのは誤用ではないが、「バンビ」はノロジカの子供をモデルにしているために、ニホンジカとは別種であることは理解しておきたい。


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[編集] 鹿を題材とする音楽

  • 『鹿の遠音』(しかのとおね) 琴古流尺八の古典本曲として有名な曲。江戸時代より伝わる。深山に遠く響き渡る鹿の鳴き声をモチーフとしている。「連管」と呼ばれる二重奏でも奏され、この場合二つのパートが牡鹿と雌鹿に分かれ、互いに鳴き交わす様を表現するという。
  • 『秋の曲』(あきのきょく) 箏曲。幕末に活躍した 吉沢検校作曲。歌詞として古今和歌集から六首を採るが、中に「山里は 秋こそことにわびしけれ 鹿の鳴く音に目を覚ましつつ」があり、箏で鹿の鳴き声を描写した奏法が用いられている。

[編集] 古代日本の鹿狩り

縄文時代の人々の主な狩猟対象は鹿と猪であった。日本語の「シカ」という言葉の語源は肉(食肉)を意味する「シ」(シシ)と毛皮を意味する「カ」が合わさったものと考えられている。古代人がシカを衣食両方の重要な供給源として見なし、非常に近い距離で関わり合っていたことがうかがえる。遺跡から出土するシカの遺存体を観察すると、頭蓋骨の後頭部が破壊されていたり、四肢骨が螺旋状に割られている状況から肉や内臓だけでなく、脳や骨髄も食用にされていたとみられている。また、細長い骨である中手骨や中足骨、堅く弾力性のある角などはヤスや銛、釣り針、弭、ヘアピン、垂飾品などの装飾品ほか、様々な道具の材料として利用されていた。シカの捕獲方法は様々であったと思われるが、縄文時代の早い時期には� ��陥し穴状の遺構が見つかっている。また、肩甲骨に石鏃が突き刺さったまま残っている遺物も出土しているので、弓矢を使用した狩猟が盛んに行われていたことが考えられる。他にヤスや銛などを使ったり、ワナを仕掛けたことも考えられる。当時の人々がシカをどのように考えていたかということは研究上の重要な問題である。縄文時代ではイノシシを模した土製品が少なからず出土しているが、反対にシカを模した土製品はこれまでひとつも見つかっていない。このことから、縄文時代において重要な狩猟動物であったイノシシとシカのうち、イノシシは当時の精神世界や観念上において一定の役割を果たしていたと考えられるが、シカは「単なる食料、もしくは道具の材料」という極めて実用的な役割であったと考えられている。

アイヌも同様にシカ(エゾシカ)はイヨマンテなどの儀礼に使用されず、また、シカの神(カムイ)そのものも存在しないと言われている。宗谷地方などエゾシカが稀な地域を除き、シカは単なる食料の対象であったと見られている(宗谷地方でのシカの扱いについては、更科源蔵の著作でも言及されている)。他方で伝承に措いては"ユカッテカムイ"即ちシカを支配する神が居て、その神がシカの骨を地上にばら撒く、或いはシカの魂が入った袋の口を緩める事で数多くのシカが地上に齎される、或いは捕らえたシカを粗末に扱う等のタブーを犯すとこの神の逆鱗に触れ、シカが地上に齎されなくなる、などの描写が多く確認できる。


弥生時代以降は害獣駆除や農閑期の狩猟活動があったとはいえ、食料資源の中でシカの比重は相対的に低下したと考えられる。その一方で、この頃から、シカを「霊獣」として扱う傾向が芽生えてきたとも見られている。縄文時代とは反対に、シカは、銅鐸のモチーフとして登場するようになるが、一方でイノシシは銅鐸のモチーフとしては登場しない。1年ごとに生え替わる角が1年のなかで同じようなスケジュールで生育する稲と関わりがある、と考えられていたのであろう。日本の神話や伝承では豊作を願い、水田にシカの死体や血を捧げるような儀式が描かれることがある。この点でシカとイノシシは同じ農作物や田畑を荒らす(シカは稲籾そのものを食べてしまい、イノシシは稲をなぎ倒す)害獣ではあるが、シカの方が日本人� �大部分が「農耕民族化」していくなかで「霊獣」としての地位を獲得していった。

古墳時代においてもシカは形象埴輪のモチーフとなっている。

奈良時代からは仏教の影響で狩猟が抑制されたが、その後も鹿肉を食べる人は多かった。天武天皇は675年に肉食禁止令を出したが、それは牛馬犬鶏猿の肉食を禁止したもので、シカやイノシシの肉食を禁じたものではなかった。春日大社、 鹿島神宮、北口本宮冨士浅間神社のような古い神社で現代でも神鹿が飼われているのは日本人と鹿狩りの古い関わりの名残りである。

なお、鹿肉を「もみじ」ともいうがこれは前述の通り「鹿」は秋の季語であり、「秋」と「鹿が棲息する場所」で「紅葉(もみじ)」を連想させるため、そういわれるようになったといわれている。

[編集] 春日大社・興福寺の鹿

神の使いである神鹿(しんろく)としてもっとも有名なのは奈良の春日大社・興福寺のシカである。春日大社の縁起によれば神鹿の由来は、主祭神である武甕槌命が元々の本拠である鹿嶋より春日大社のある三笠山に遷座した際に乗っていた白鹿が繁殖したものと伝えている。江戸時代まで神鹿殺しは重罪であり、犯人は死刑となった。現代においても条例等で刑罰の対象となる。

上方落語の『鹿政談』は正にこの史実を元にした噺で、オカラ(卯の花)を食べに来た春日大社のシカを犬と誤って殺してしまった豆腐屋に対し奉行はシカの死体をあくまで角が生えているように見え、身体には鹿模様のある犬であると言い張り、無罪放免にしたというもの。

現在、春日大社周辺に生息する「奈良のシカ」は天然記念物として保護されている。

神社・仏閣の境内や庭園などで灯明用や常夜灯として用いられる灯籠(とうろう)のうち奈良県奈良市春日野町にある春日大社に献納された数多くの灯籠を総称して春日灯籠と呼ぶが、灯明を据える六角形の火袋(ひぶくろ)の部分に神鹿が浮彫りにされ笠の角部分に蕨手と呼ばれる巻き型のある石灯籠の型をとくに春日灯籠と呼ぶ。


[編集] 奈良の寝倒れ

  • 春日大社の鹿にまつわり、奈良には以下のような昔話が伝わっている。[要出典]
ある朝、春日大社の参道に行き倒れた鹿が死んでいた。参道沿いで一番早く起き出した店の主人は自分の店の前に鹿の死体があるのを見て仰天しこのままでは自分に鹿殺しの嫌疑がかかると思い、こっそり隣の店の前へと鹿の死体を引きずって、素知らぬふりをして自分の店の前を掃き清めた。その次に起きた店の主人も自分の店の前に鹿の死体があるのを見て仰天し、まだ閉まっている隣の店の前へと鹿の死体を動かした。そうやってそれぞれの店の主人は慌てて次の店の前へと鹿の死体を動かしていき、そのうち夜が明けた。最後に鹿の死体が動かされたのは、通りでも一番の寝坊として有名な男の店の前であった。男が起き出したときには既に日が昇っており、男の店の前には大勢の役人が駆けつけていた。こうして哀れ寝 坊の男は死罪となり、それ以来奈良の商家はどこも朝が早いという。
  • これから「奈良の寝倒れ」という言葉が生まれたという。「京の着倒れ」「大阪の食い倒れ」「神戸の履き倒れ」と併称して呼ばれる。

[編集] 占いと鹿

古代日本で行われていた占いの一つに太占(ふとまに)があり、古事記や日本書紀にその記述がある。この占いでは鹿の骨(卜骨 - ぼっこつ)を用いることが多く、鹿卜(かぼく)とも呼ばれる。具体的には鹿の肩甲骨(少数ながら肋骨や寛骨も)を焼き、その亀裂の形や大きさで吉凶を判断した。このため鹿は聖獣として扱われていた。


[編集] 参考文献

  • 大秦司紀之 (1986)ニホンジカにおける分類・分布・地理的変異の概要. 哺乳類科学, 53:13-17.
  • 高槻成紀 (2006)『シカの生態誌』, Natural History Series, 480, 東京大学出版会, ISBN4-13-060187-3.
  • 小宮輝之 『増補改訂 フィールドベスト図鑑 11 日本の哺乳類』 学研教育出版、2010年。
  • 今泉吉典 『原色日本哺乳類図鑑』 保育社、1960年、186頁。
  1. ^ a b c Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder. Mammal Species of the World, 3rd edition. Cervus nippon
  2. ^ 資料2 ヤクシカの生息状況について (PDF) 屋久島世界遺産地域科学委員会ヤクシカ・ワーキンググループ第1回会合
  3. ^ 外来語である「獅子」とは別語。
  4. ^ ほかに、カモシカは「あおじし」であり、ウシは「たじし」などとも呼ばれた。

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