1. 住宅保険の種類
・ Homeowners Insurance
住宅保険は保険を掛ける家の種類によって分かれています。一般にHomeowners Insuranceと言えば、一戸建ての保険です。Multi Family Home(2〜4軒が1棟になっている家)もHomeowners Insuranceでカバーされます。また、投資物件として家を持っている場合もHomeowners Insuranceを掛けます。この場合、所有者が住んでおらず、賃貸していることを明記しなければなりません。
一軒家の場合、建物、内装、ガレージ、別棟(物置など)、庭(芝生やアスファルトなど)、垣根など全てをカバーする必要があります。そのため、単純に家の広さだけで保険金額を見積ることはできません。
・ Condominium Insurance
コンドミニアム*1の保険はCondominium Insurance、タウンハウスはTownhouse Insuranceと別に呼ばれることが多くなっています。
どちらの保険も保険項目はHomeowners Insuranceとほぼ同じ内容になっています。違いは各項目の保険金額です。コンドミニアムやタウンハウスの場合、管理組合(Home Owners Association = HOA)がMaster Policyといって、そのコミュニティ全体の保険を掛けています。Master Policyでは共益部分、つまり建物、庭、ゲート、ジムやプールなどの娯楽施設、水道の配管など、そのコミュニティ全体で共有しているものをカバーしています。そのため、多くの場合、Condonimium Insuranceでは建物を再建する費用をカバーする必要はありません。ただし、内装はユニットの所有者の責任になるので、この部分に自分の保険が適用されます。コンドミニアムは売りに出されるときはカーペット、キャビネット、給湯設備、バス、トイレなどが含まれて売られています。しかし火事などで再建しなければいけなくなると、それらは全て所有者の責任になってしまうので、注意が必要です。
・ Renters Insurance
家を所有しているのではなく、賃貸している場合はRenters Insuranceになります。Renters Insuranceは建物や内装に保険を掛ける必要はありませんので、これらの項目の保険金額はゼロになります。しかし、個人所有の物品や後述する賠償責任をカバーするために、アパートを借りているだけでも必ず住宅保険に加入しておく事をお勧めします。
2. 保険項目
住宅保険の保険項目は、保険の種類に寄らず同じ項目が使われます。Renters Insuranceは建物自体は保険に掛けませんから*2、すべての項目はなく、Coverage C以降だけになります。項目の名前は保険会社や州によって表現が異なる場合がありますのでご注意ください。
・ Coverage A - 住居
住宅保険といえば、まず思いつくのが住居、正確に言えば主たる住居とする建物を補償する保険です。日本では火災保険と呼ぶ場合もありますが、火災だけでなく自然災害も補償するのが一般的です。ただし、補償される自然災害は限定されており、特に地震、ハリケーン、水害は含まれません。これらを補償するには付加条項として追加するか、別に専用の保険に加入する必要があります。
この項目の保険金額を決める際には、再建費用(Rebuilding Cost)を調べます。自分が家を買った値段と、その建物を建て直すための費用は違います。特に古い家の場合や、建築費用が高騰した場合*3は家の購入価格よりもはるかに高い補償金額にする必要が出てきます。
保険を掛けた補償金額が再建費用と比べて低い場合、部分的に損害があった時にその分だけ差し引かれて保険金額が算出される場合があります。建物全体の費用を保険に掛けていないため、費用の算出に減価償却された価値(Depreciated Value)が使われるためです。保険金額は必ず、再建費用をカバーするように設定しましょう。
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・ Coverage B - 付属建物
この項目はガレージや物置小屋など、住居ではない付属的な建物をカバーします。通常はCoverage Aの10%の保険金額が自動的に設定されます。
・ Coverage C - 家財
Coverage Cは家財をカバーします。普通は最大でもCoverage Aの75%ほどまでが保険金額に設定できます。保険金額には2種類あり、1つは実際の物品の価値までがカバーされるものです。この場合、Actual Cash Valueと言われ、その品物を購入した金額から、Depreciation(償却金額)を引いたものを、品物の価値と考えます。例えば10年前のテレビの価値はほとんどゼロに近いでしょう。
もう1つはReplacement Costと呼ばれ、新たに同じようなものを買ったときに掛かる費用です。この場合、10年前のテレビであっても、同等のテレビを新たに買いなおす費用が補償されます。この項目で重要なのは、必ずReplacement Costがカバーされるように付帯条項をつけておくことです。火事など、一度にほとんどの家財をなくしてしまう場合、時間をかけて安売りを探している余裕はありません。そのため、新品で一度に多くの品をそろえる必要があり、そのためにはReplacement Costでなければなりません。
・ Coverage D - 生活費補助
保険対象の家に住めなくなってしまった時に、一時的に住む場所の費用として保険金が支給されます。この項目では一日当たりの金額や、最高で何日までカバーされるか、などが規定されています。多くの場合、掛かった費用をそのまま補償してくれるのではなく、その家に住んでいなければ不要な費用を引いて1日あたりの支給額が算出されます。火事で家が焼けた場合など、その家の公共料金などは(一時的とはいえ)不要になるのですから、その分が引かれることがあります。
・ Coverage E - 賠償責任
住宅保険で、建物と同様に重要な項目が賠償責任です。アメリカは訴訟社会ですから、ちょっとしたことでも訴訟を起こされ、保険が無ければ私財を使って賠償責任を負わなければなりません。Coverage Eでは、住宅とは直接関係ない訴訟も含めて、広範な賠償責任を補償します。家の前で誰かが転んだ場合から、家の外で誰かに怪我を負わせてしまった場合などもカバーされるのが特徴です。住宅保険に加入する意味は、賠償責任が補償されるからと言っても過言ではないでしょう。
・ Coverage F - 医療費
この項目は通常は$1,000までの小額の医療費をカバーします。家に来たお客さんが怪我をしてしまった場合、小額の医療費を払えば済むことがあります。この項目でカバーできない場合や、金額が上限を超えた場合は、賠償責任補償(Coverage E)を使うことになります。
3. 特別項目
住宅保険はそのままだと、基本的なものだけを補償するように考えて設定されており、特別な物品や項目は補償範囲に含まれません。以下に上げる物品や状況を補償するためには、追加条項が必要です。
・ 宝石類
宝石類は基本の保険のままでは通常$1,000までしか補償されません。また、その宝石類がいくらの価値があったのかを証明しなければなりません。このような場合は追加条項で補償されるようにします。そのためには鑑定書(Appraisal)が必要になります。鑑定書があれば、いくらの保険を掛けるのかもはっきりしますし、万が一、損失した場合でも保険会社は既に価値が分かっているので、補償金額が問題になる事もありません。
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・ 骨董品、絵画、趣味の収集品など
自分の趣味で集めた品物、例えば切手などは額面以上の価値があるばあいもあるでしょう。骨董品や絵画なども高い価値のあることがあります。こういった物を保険にかけるには、宝石類と同様に鑑定書を取り、追加条項に必要があります。しかし、物によっては自分にとっては価値が高くても鑑定書にするとそれほどでもない物品もあります。その場合、通常の物品としてCoverage Cの範囲で保障されるようにします。買ったときのレシートを取っておくなど*4、あらかじめ対策を取っておきましょう。こういった特別な物品を保険に掛ける場合、エージェントにアドバイスをもらうのも方法です。
・ ビジネス関連
明記しない限り、自宅で行っているビジネス関連の物品や損害責任は補償されません。ビジネスを何らかの形で行っている場合は、適切な保険条項を選択しましょう。自分では「ビジネス」と思っていない場合でも、問題が発生したときに保険会社はそれを「ビジネス」とみなして、保険金の支払いを拒否する可能性があります。例えば高校生が時々、ベビーシッターとして近所の子供の面倒を見て、いくらかの報酬をもらっている場合などです。それがビジネスになるかどうか、状況により判断が分かれます。少しでも疑問があれば、エージェントや保険会社に連絡し、「こういった場合に保険は適用されるか」と聞いておきましょう。適用される場合は書面にしてもらいましょう。そうすることで、保険金申請のときのトラブルを避け� ��ことができます。
・ 賃貸物件
持っている家を人に貸す場合、住宅保険もそれに合わせて条項を追加する必要があります。所有者(Owner)本人が住んでいないとリスクが高まると考えられ、わずかではありますが、追加の保険料が必要になります。また、テナントの家財は、Ownerの住宅保険ではカバーされません。テナントにはRenters Insuranceに入るよう、勧めておきましょう。
4. 住宅保険の注意点
住宅保険自体は簡単に契約することができます。しかし、注意しておかないと保険金請求のときになって損害が補償されないと分かる場合があります。住宅に関わる損害は金額も大きくなりがちです。いざというときに慌てないで済むように、自分の状況に合うような保険に加入しましょう。
・ 保険金額
十分な保険が掛けられていなければ、せっかく保険があっても損害は膨大になります。家の再建コストや、付属建物、あるいは家財は、意外と価値が高いものです。保険エージェントに頼むと、家の大きさやベッド数、建築年数などから金額を割り出してくれます。しかし、その金額をすぐに信用するのではなく、家や家財に即した金額を自分でも算出するべきでしょう。
家屋の場合、購入したときの鑑定書に再建コストが書いてあります。購入したのが数年以上前の場合や、建築資材が高騰した場合*5、再建コストを見直して、保険金額を修正する必要もあるでしょう。
家財であれば、物品リストを作り、自分の見積もり金額を書いていくことで推測できます。物品の金額を計算するのは細かいものまで全て含めるのは大変なものです。簡単におおよその金額を算出するには、家具や電化製品など金額の高いものを全て合計し、それを2倍にすると良いでしょう。自分で計算した金額とエージェントの金額が大きく違うようであれば、詳細に計算したり、建築業者に見積もりを取るなど、正確な数字を出すようにしましょう。
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・ 保険の効かない災害
標準的な住宅保険では多くの災害が補償対象になっていません。地震、ハリケーン、土砂すべり、洪水など、その地域と保険会社によって、どの災害が対象になるか違ってきます。地域によって災害ごとのリスクは異なります。例えば地震は、アメリカのどの地域に住むかで大きく発生する確率が違ってきます。自分の家のある地域の地理的状況にあった追加条項を含めるようにしましょう。
・ 2次被害
被保険者は、損害が発生したら、それ以上被害が広がらないように、家や家財を保全する義務があります。例えば屋根に穴が開き、そのために雨で内装が冠水し被害を受けた場合、内装の被害は補償されない場合があります。そういった場合は出来る範囲でシートを被せるなど、被害が広がらないようにする義務があります。
・ 除外項目
住宅保険にはさまざまな除外項目があります。
ビジネスに関する除外は気が付かないところで関係する場合があります。自宅で時々仕事をする場合、それが「ビジネス」として扱われる場合があるからです。特にコンピューターで接続しさえすれば仕事ができるような場合、自分が気が付かないうちに「ビジネス」を家で行っていることになり、注意が必要です。住宅保険にビジネス業務をカバーする付帯条項を追加すると良いでしょう。
スノーモービル、ATV、ゴーカートや(公道を走らない)モトクロスバイクなどレジャー用車両も住宅保険の対象外です。ボートは状況によって賠償責任がカバーされる場合とそうでない場合があります。馬力、長さ、エンジンの形状などで分類されています。こういったものを借りる場合は、あらかじめ住宅保険でカバーされるか確認する必要があるでしょう。
・ 借家住まい
アメリカに暮らしている人の多くが見落としているものに、Renters Insuranceがあります。アパート住まいなら、建物の保険は大家の責任ですから、住宅保険が必要であるとすぐに気が付かないことが多いのです。アパートであっても、2つの理由から、必ずRenters Insuranceに入りましょう。
まず、自分の家財を保険にかける必要があります。大家の保険ではテナントの所有物は補償されません。自分のものは自分で守る必要があるのです。
もう1つの重要な理由は、賠償責任です。アメリカは訴訟社会ですから、いつ、どんな時に訴えられるか分かりません。友人や知人であっても、訴えるしか損害を補償してもらう方法がない場合もあります。人を家に呼んだときや外出先で人に怪我を負わせてしまうなど、過失があったと判断されてしまう可能性は、どこにでもあります。直接、保険の対象になるのは賠償責任ですが、保険が無ければ自分の財産を取られてしまいます。アパート暮らしであっても、自分の資産を守るための重要なものと理解して、保険に入りましょう。
5. 住宅保険の戦略
保険を掛けたから、何が起こっても大丈夫、という事にはなりません。いくら保険を掛けてあっても、実際に損害が発生すれば面倒な手続きや、精神的な負担もあります。大切な事は、保険を正しく掛ける事と合わせて、危険をあらかじめ避ける、損害が発生した際に最小限になるよう準備しておく、などの総合的な対策です。保険そのものと合わせて考え、有効となるような戦略を取っていきましょう。
・ 危険を避ける
住宅保険を考える前に、リスクそのものをなくす、あるいは避ける事が出来ないか、検討するべきでしょう。例えば、賠償責任に関して、危険を最初から避ける事を考えて見ましょう。自宅の庭にプールやトランポリン、ブランコなどを設置する事は訴訟を招く危険があります。近所の子供が勝手に入ってきてそれらを使い、事故になった場合、持ち主が訴えられるのです。こういった遊具を最初から設置しないことで、リスクをなくす事が出来ます*6。
住宅保険の賠償責任には、ボートをレンタルした場合の賠償責任がカバーされる場合があります。しかし、保険でカバーされるからと言って、慣れないモーターボートをレンタルする必要はありません。別の方法でレジャーを楽しむことで、ボートの事故による賠償責任をなくす事が出来ます。
この戦略はバランスが大切です。ボートを借りなければ、確かにそのリスクは無くなりますが、そのアクティビティを楽しみに旅行するのであれば、リスクを覚悟の上で十分な保険を掛け、借りるのも良いでしょう。危険があるから、と言っていては何も出来なくなってしまいます。自分のやりたい行動とリスクのバランスが大切です。
・ リスクを減らす
リスクの種類によっては、それを完全に避ける事はできないものがあります。家財を失う危険などは、避けられないリスクの良い例でしょう。そういった場合は、リスクを減らす事を考えましょう。
消火器を常備し、ガスや電気機器の点検を定期的の行えば、火事になる確率を減らし、家財を失う確率を減らすことが出来ます*7。自然災害で言えば、屋根や壁の点検や張替えを定期的に行う、木や枝を剪定する、地下室に(水をくみ出す)ポンプを常備するなどでハリケーンが来たときの家屋への損害を減らすことが出来ます。
・ 準備の重要性
万が一、災害にあってしまった場合、どれだけ損害を回収できるかは事前の準備によります。住宅そのものが被害を受けた場合、それを修理する費用が保険会社から支払われます。しかし、保険会社の見積もりが低すぎる場合もあります。事前に信頼の置ける建築業者を調べておけば、その業者から修理費用の見積もりを取り、保険会社と交渉する事も出来るでしょう。
家財の損害を補償してもらう際には、どのようなものを所有していたか、記録が必要になります。記録がまったく無ければ、保険会社に有利なように判断されてしまいます。こういった記録を取っておく簡単な方法がいくつかあります。家の中をくまなくビデオやカメラで撮っておき、どんなものがあったか分かるようにするのも方法でしょう。クローゼットの中や地下室なども、何があったか分かりやすいように撮影します。撮ったビデオテープや写真を自宅以外の安全な場所に保管しておきます。
購入したもののレシートのコピーを取っておく事も役に立つでしょう。いくらで買ったか、どのような機能の商品だったかがはっきりと分かりますから、保険会社の見積もりに同意できない場合には重要な情報になります。これもコピーが自宅にあっては意味がありませんから、安全な場所に保管します*8
このような戦略は自宅の購入前、アパート探し、住宅保険の更新など、機会があるごとに考える必要があるでしょう。「危険を避ける、減らす、万が一のために備えるには、何が出来るか」という視点を持って住宅を選ぶなど、冷静な判断が大切です。
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